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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1188号 判決

控訴人

菅野芳之助

右訴訟代理人

高山平次郎

外一名

被控訴人

西山勝吉

右訴訟代理人

真壁重治

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

西山コンクリートが昭和四八年四月五日現在で、岩下工業に対し金九六六万二、〇〇〇円の債務を負担していたことは当事者間に争いがない。

金銭消費貸借契約証書には、昭和四八年四月五日被控訴人は岩下工業から金九六六万二、〇〇〇円を利息は年一割、遅延損害金は年三割で借受けた旨の記載があり、本件不動産の登記簿謄本には、同月二五日受付第一八八五九号で、被控訴人の右債務に対する抵当権設定契約により抵当権者を岩下工業として抵当権設定登記がされた旨の記載があり、右の事実に〈証拠〉を総合すると、被控訴人は昭和四八年四月五日西山コンクリートの岩下工業に対する九六六万二、〇〇〇円の債務を重畳的に引受けたことを認めることができる。すなわち〈証拠〉によれば、西山コンクリートは当時多額の営業上の債務のため倒産に瀕していたこと及び被控訴人が西山コンクリートの岩下工業に対する債務のうち金九六六万二、〇〇〇円の債務を岩下工業に支払うことを約した後もなお、岩下工業は右金額を含み且つそれを超える一、三七五万七、五〇七円の債務が依然として西山コンクリートの債務として残つているものとして、西山コンクリートの債権者会議に債権額を届け出ていることが認められ、また〈証拠〉によれば、岩下工業は前記債権者会議への債権額の届出後開かれた西山コンクリートの債権者会議において提案された債権額の三〇パーセント切捨て、残額のうち一部を除いて弁済を猶予するという案に反対の意向を有していたこと、岩下工業は債権者会議がいかなる意向をもち、いかなる決議をしようとも、被控訴人がその支払を約した九六六万二、〇〇〇円は被控訴人から支払を受けようと考えていたこと、その後岩下工業は被控訴人から金二〇〇万円の支払を受けたこと〈中略〉を認定することができ、右の事実に、一般に和議成立(強制和議の場合を含む)が連帯保証の場合であると単純なる保証の場合であるとを問わずその効力を保証人に及ぼさないこと(被産法第三二六条第二項、和議法第五七条)及び主債務者に対する破産若しくは更生手続の効果が破産者若しくは更生会社と共に債務の履行義務を負う他の債務者の履行義務に及ばないこと(破産法第二六条、会社更生法第一一〇条参照)を考え合せると、被控訴人の岩下工業に対する本件の支払約束も当時倒産状態にあつた西山コンクリートの岩下工業に対する債務について右のような場合に他の債務者にも債務免除の効力が及ぶものではなく、被控訴人は岩下工業に対し西山コンクリートの債務を重畳的に引受けたものと解するのが相当である。〈中略〉被控訴人は、被控訴人が債務を負担したのは、被控訴人が西山コンクリートの代表者であり、西山コンクリートには資産が皆無であつたので、岩下工業に対する債務の支払を確実化するためになされたものであり、西山コンクリートと被控訴人間には、岩下工業に対する弁済という共同目的による主観的な関連が認められ、そのような関係は債務者間の連帯保証関係というべきであると主張するが、主観的な関連が認められるからといつて、そのことだけで債務者間の関係が連帯保証関係であるということはできず、本件においては重畳的債務引受関係と認定すべきことは前説明のとおりであるから、被控訴人の主張は採用しない。

〈証拠〉を総合すると岩下工業は、昭和四八年一二月八日に開催された西山コンクリートの第三回債権者会議における被控訴人主張のような債権一部切捨て、残額のうち一部弁済猶予の決議に同意し、従つて岩下工業の西山コンクリートに対する債権の一部は消滅し一部はその弁済が猶予されたことを認めることができるが、右の切捨て及び弁済の猶予は、前認定の事実から西山コンクリートとは不真正連帯債務を負つたものと認められる被控訴人にはなんらの影響も及ぼさないものである。〈後略〉

(菅野啓蔵 舘忠彦 高橋克巳)

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